〇共 振《シンクロ》

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〇共 振《シンクロ》

 青い空に吹き流しの白い雲。 石畳の広い道路から見上げるように高い、円錐状の屋根を持つ教会塔の上階から、彼は街を見渡していた。  「相変わらずの風景だけど、僕はこのネルトリンゲンの街が好きなんだ」  城壁に囲まれた、オレンジ色の壁に三角屋根の建物の街並みが見える。  いつも見ている彼の横顔だけど、何故か少し寂しそう。  「ねえ、エルダ」  彼は街を見ながら私の名前を呼んだ。  彼の銀色の髪、灰色の瞳、そして私の名を呼ぶ声の響きが好き。 「なあに、ヨハン」 少し甘えた声で答えてみる。 「実はね、仕事の出張の話なんだけど」 彼の声に幾分か緊張の色があった。 「ロシアに行くって話だったわよね?」 「いや、もっと、ずっとずっと東さ。世界の東の果て、日本という国まで行くことになった」  「やっぱり、遠いところに行くのね。日本ってロシアと戦争した小さな島国だけど大丈夫なの?」  「やっぱりって、日本に行くって知ってたの?」  「ううん、知らなかった。でも、貴方が最近優しすぎるから、何かあると思っていたわけ」  「君には適わないな。実は長い仕事になりそうなんだ」     
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