〇精霊の街

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〇精霊の街

 一昨年、母のツテでこの見知らぬ土地、鹿児島県伊佐市(かごしまけんいさし)にI(アイ)ターンした三姉妹は、母の遠縁にあたる西という男を頼ることとなる。  西は伊佐市の地域振興課の課長であり、三人姉妹の長女と次女を表向きは「地域起こし協力隊」の一員として迎え入れた。  一年目は二人とも「地域おこし協力隊員」という名目の臨時職員という立場であったが、翌年次女の早百合は有名私立大学の建築学部卒業というスキルをもとに職員採用試験を受けて見事合格し、正職員となり建築課で働いている。  泉は保有している不動産関係の資格を生かしたかったので、そのまま嘱託職員を続けた。色々な人と知り合いになり、この地域での人脈を築き、やがては自分の会社を興そうと考えている。  三女の和香(のどか)は超のつくほどのインドア派であり、ていのいいニートを気取ってはいたが、実際は美大在学時に得た画力で、イラスト投稿サイトに投稿したり、小物を作って売ったりしてそこそこの収入を得ていた。  三人三様の姉妹であるが、実はある同じ特徴を持っていた。  普通の人間にはない特徴だ。  三人には、ヒトには見えないものが見える。  それは、霊と言われるものでもあったり、精霊であったり、地付きの神であったり。  その特徴こそが、三人の母が彼女達を「精霊の街伊佐市」に住まわせた理由でもあった。  伊佐市はどこにでもある過疎の進む地方都市であったが、その一方、日本でも五本の指に入るほどの、見えないモノに(あふ)れた町なのだ。  人の目に触れないだけで、様々な精霊や霊や八百万(やおよろず)の神々がそこかしこに存在していた。    「じゃあ、あたしも仕事に行ってくるね。和香ちゃん、りん、留守番お願いします。あ、洗濯機はかけておいたから、いつものように乾燥よろしく」  泉は、和香(のどか)の髪を優しくなで、勢いよく尻尾を左右に振るりんの背中をトントンと軽く叩くと玄関を出た。  泉も市役所勤務であるが、勤める部署が違っているので、早百合とは反対方向の北庁舎に車を走らせた。
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