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能天気な音楽が鳴り響く、デパートのランドセル売り場。
そこへたどり着くと、そいつは鮮やかな青色のランドセルに飛びついた。
「にーに!わたし、これがいい!」
青色の目を輝かせて、そいつはそういった。
…ぼくの時代にもピンクとか水色とか、果ては茶色なんてランドセルを使う女子はいたが、しかし青はいなかった。
この青といえば、変わった男子が背負っていたものだ。
「…あのな、青ってのは男の子のランドセルの色だと思うぞ。」
「うん、そう!にーにのランドセルの色!」
…ぼく?そう言われて、ああと思い出した。
そうだ、ぼくは青色のランドセルを背負っていた。
ぼくの小学校の男子は、みんな黒色のランドセルだった。青色のランドセルはどうやらぼく一人だけだったらしい。
教室のロッカーは、ぼくのところだけ目立つ青色。
周りからの声も聞こえてきた。
“青色なんてお前だけだ”
その声を聞くたびに自分を恨んだ。
どうして青色のランドセルなんて選んだんだ。
こんな色じゃなければ。
「…その色、やめたほうがいいと思うよ。」
「どーして?」
「青色っていうのは、変わった色だから。どうしてそんな色なのかって、ずっと言われ続けたら嫌だろ?」
「どーして?」
そいつは澄んだ瞳で聞いてくる。
青色の瞳。
どこまでも鮮やかな、このランドセルのような色の瞳。
こいつは一生、この青を背負っていくのだろう。
そうして、周りから言われ続けることになるだろう。
“青色なんてお前だけだ”
その声を聞くたびの自分を恨むだろう。
どうして青色の瞳なんて選んだんだ。
こんな色じゃなければ。
と。
こいつには、ぼくの6年間が一生続くのだ。
外すことのできない青色が一生続くのだ。
「わたし、青色大好き!」
澄んだ青色の瞳でそう言われる。
ああ、ぼくだって青色のランドセルを選んだ時は青色が好きだった。
でも、それは嫌いになっていくものだ。
だんだんと青を嫌いになっていくのだ。
「にーにの写真の、青のランドセルがいいって思ってたの…」
ぼくはそいつに何を教えるべきなんだろう?
「……いいんじゃないかな、青色でも。」
「ほんと!?青色でもいい?」
「うん…青色、好きだからね。」
ぼくはそいつの青色の瞳を見つめた。
ああ、なんて綺麗な色なんだろう。
僕は青色が好きだ。
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