彼女とまた会える日までに

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 誰も人の来ないような狭い入り江。そこの浜辺に横たわってある木の幹に座って海の絵を描くのが僕の日課だった。 「やぁ、こんにちは」 いつものように浜辺でデッサンをしていると突然、女の子に話しかけられた。チラリと声のした方を見ると白いワンピースを着た髪の長い少女が立っている。 「君、毎日ここにいるよね」 「うん。僕はこの海が好きだからね」 「絵を描くのが、じゃなくて?」 「いや、僕が絵を描くのは単なるここにいる為の口実さ。男が一人ずっと浜辺に座っていたら気持ち悪いだろ?」 「絵を描いてるだけでも充分おかしいと思うけど」 「はははっ。そうか。それなら、また別の理由を考えなくちゃいけないな」 とは言ったものの僕は明日も明後日も絵を描き続けるだろう。他に何も思いつかないし考える気にもならないから。 「ねぇ、貴方の描いてる絵、見せてくれない?」 「いいけど、多分つまらないと思うよ」 「大丈夫。私は絵を観るのが好きなの。例えそれがどんな絵でも構わない」 「それなら」 とくに断る理由もない。僕は彼女に絵をみせてあげた。 「う~ん。凄く変わってる人が描いた割に普遍的な絵だね。題材にした景色の問題もあるんだろうけど」 そう、彼女が見た僕の描いた絵には海と岸と空を羽ばたく鳥しか写っていない。それに加えて色もついていないのだから観る側としては、さぞかし退屈なことだろう。 「そりゃ僕は絵のプロを目指してるわけじゃないからね。ただただ毎日ここに来ては絵を描いている素人さ」 彼女に絵を見せ終わると、またデッサンの作業に戻る。 それから、しばらく時間が経過した。けどまだ隣にいる少女が帰る気配はない。それどころかずっと興味深そうにこちらを見ている。 「海の景色なんて、そう毎日変わるものじゃないでしょう?退屈しない?」 「あぁ、しないよ」 「何か描くのが楽しくなるような、特別なことでもしてるの?」 「いいや、何もしてない。ただただひたすらに絵を描いているだけさ」 「やっぱり変わった人だ」 ふふふっとこちらに笑いかけると彼女はようやく一歩こちらに近づきまた止まる。 「そうだ。明日もまたここに来ていい?」 「いいけど、君にとって面白いことは何一つないよ?」 「ううん。面白いよ。君を見てるだけでも充分」 「それなら君も変わった人だね」 「そうかもしれない」 それだけ言い残すと彼女は砂浜から去っていった。
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