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「こんにちは」
「やぁ。昨日ぶり」
翌日もまた彼女は砂浜に現れた。取り敢えず挨拶されたから挨拶は返しておく。
「やっぱりまた絵を描いてるんだね」
「うん。他にやることないからね」
「そっか」
そこから数刻続いたのは僕らでない他の誰かからすると至極どうでもいい内容の会話だった。でも彼女と話す時間は僕にとってなかなか楽しかったりする。少なくとも1人で絵を描いてるよりは。
「君はどこから来たの?」
会話の流れで、ふと気になって聞いてみた。この砂浜はなかなか人目につかない場所にある。だからそう易々と入ってこれる場所じゃないのだが。
「私?私はねぇ~近所かな。」
「近所?」
はて、この砂浜の近くに家なんてあっただろうか。少し考えてみるも結論は出なかった。
「君は?」
こちらの疑問など意に介さず彼女も僕に同じ質問をしてきた。
「僕は・・・僕もここら辺だな」
「ねっ?それと同じだよ」
そうか。そう言われて納得した。多分だけど僕はもちろん、彼女も情報を隠す気はない。そして嘘もついていない。
「私もやっぱり1人でいるより君といる方が楽しいや。もし、もしだけど君が良いと言ってくれるなら、これからしばらく遊びに来てもいいかな?」
「良いよ。こちらとしても君がいてくれる方が楽しいから」
「そう、ありがとう」
そう言うと、やはり彼女は消えるように去っていった。
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それから何日もそんな生活が続いた。
彼女が砂浜を訪れて、たわいない会話をして、そしてある一定の時刻になると帰っていく。
ただそれだけのことなのに今まであまり人と接することなど無かった僕にとって、その時間はとても幸せなものだった。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。
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今日も彼女は僕の隣に立っている。ただいつもと様子は違うみたいだけれど。
「どうかしたの?元気がないみたいだけど」
口数は少ないし、こちらの返答にもどこか上の空で会話するのが難しい様子だったから心配になって声をかけてみた。
「えっ?・・・ううん、なんでもないよ。元気」
「それにしてはさっきから大人しいよね。いつもはもっと喋るし、何よりよく笑ってた」
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