彼女とまた会える日までに

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「私ってそんなに喋ってたかな。記憶にないや」 彼女はそう言って笑みを見せるも、その笑みには苦みが含まれていた。恐らく、記憶にないというのは嘘だ。そして嘘をついたことで生じた罪悪感で彼女の笑みに苦みが混じったんだろう。 「もしなにかあるなら相談にのるよ?僕じゃ役不足かもしれないけど」 「そんなことはないよ。一緒に過ごした時間は短いけど私は君を結構、頼りにしてる」 「なら頼って欲しいな。何とか君の役に立てるよう頑張るから」 「君には・・・どうにもできないよ」  そこで彼女は初めて僕の隣に座った。両膝を手で抱え、その膝に顔を埋めている。それがどういった感情を表す行動なのか僕には分からない。 「ごめん。言い方が悪かった。君だからどうにもできないんだよ」 「それは、どういうこと?」 「私ね。引っ越すことになったんだ」 「あぁ。そういうことか」 それだけで凡その事情は分かった。確かに僕にはどうにもできない。 「じゃあ、お別れだね」 「うん・・・」  お別れ。そう言葉を発した瞬間、僕の心は重く気持ち悪い何かに蝕まれた。  こんなの初めてだ。きっとそれはこの砂浜で絵を描いてるだけでは生まれないものなのだろう。 「私、君と離れたくないな。折角仲良くなれたのに」 「それは僕もだよ」  自然と口から漏れたその言葉に自分で驚く。それは、これまでずっと真っ白だった僕のキャンパスに色がついた瞬間で。まるで僕が僕じゃないみたいだ。 「じゃあ一緒に来る?」 「それはできない。僕もついて行ったら大変な事になるならね」 「ふふっ。だね」 ふと、彼女の頭が僕の肩に触れる。 「しばらく、こうしてていいかな」 「いいよ」  彼女の笑顔を取り戻す為に何とかしたいところだけど。 その別れの理由は本当に僕にはどうにもできない。  時というのは残酷で、流れて欲しくない時間に限って早く流してしまう。いつも彼女が帰るだいたいの時間になってしまった。 僕の肩から彼女の重みがなくなる。 ただ、まだ立ち上がっただけで消えてはいないようだ。 「そろそろ帰らなきゃ」 「あぁ、そうだね」
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