コケシと美青年

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始業式が終わり、言いつけ通り、真っ直ぐ家に帰った。 玄関扉を開けると、バタバタと音がして、母親が奥から顔を出した。 「遅い!早く着替えて!お昼の約束してるんだから!」 もう13時じゃない、という声を遮るように、自室に戻る。カバンをベッドに放り投げ、大きくため息をついた。 あー、行きたくない。 ただでさえ人と接したくないのに、知らない人と食事なんて。 興味は無いし、どうでもいいけど、私の世界を壊さないで欲しい。私独りの世界を。 お母さんに連れて来られたのは、ちょっと高そうな日本料亭だった。奥の座敷に通される。 「遅くなってごめんなさい!」 わざとらしい甘えた声で、お母さんが謝罪した。 そこに座っていたのは、50代後半くらいの男性。白髪混じりのグレーの髪は、上品に整えられ、清潔感がある。身につけているスーツは、確か何とかっていう高級ブランド。洋服に疎い私でも、見れば分かるくらい有名な物だ。手首には、大きな文字盤の時計がキラキラと光っていた。多分これも高級な物だと思うけど、嫌味っぽくは無かった。 「よく来てくれたね。初めまして、凛子(りんこ)ちゃん」 「は、初めまして」 目尻のシワから、人柄の良さが伝わってくる。今までの父親の中で、実の父親の次に素敵な人だ、と直感的に思った。 「西澤(にしざわ) 総二(そうじ)さんよ。お母さんと、お付き合いしてくださってる方」 予想していた倍以上まともで素敵な人だったので、お母さんのどこが好きなんだろう、と私は思った。 ふと、テーブルに目を落とすと、食事の用意が4人分。不思議に思っていると、総二さんが言った。 「実は、私には息子が1人いてね。もう着くと思うんだが」 そう言った時、背中の障子がガラリと開いた。
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