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その1ヶ月は私をある場所に導いた。
失恋の春から、服が薄くなってきたことに気づいた太陽が肌を突き刺すように照り始める季節になった。
そして時間が傷を癒す、と言われているように、時間や先輩の言葉が私の心の穴を埋めて言ってくれた。元カレの分は。
私と先輩は見渡しても山しかないつまらない場所に住んでいたが、
先輩は遠い海の見える大学に進学した。
元々海に憧れがあった私は
ベッドの上でゴロゴロしながら先輩にメッセージを送っていた。
そんな単純な思いでメッセージを送っていた訳ではないのだが。
《海が見たいんだ先輩!
だから家に泊めてくれないか?!》
さてこの文を見た第三者や
一般常識を持つ大人なら必ず言うだろう。
「高校生の女の子が大学生の男の家に泊まりにいくということは大変危険なことだ。こいつは何言ってんだ。」と
大人は言う
男は狼だ、と。
そして先輩も性格は男だ。
正直断られると思っていたから
半ば諦めた気持ちで返信を待っていた
《いいよ別に。どうせ断ってもお前諦めないし、
あと別に襲おうとかも思ってないし》
全腹筋を使って、上半身を起き上がらせた
嬉しいって言う気持ちと
本当に女として見られていないような気がして少しショックな気持ち。
これでもぴちぴちの高校生なのに。
《海とか連れてってくれる?》
《海ぐらいならな》
でもそんな悲しい気持ちも吹っ飛ばす先輩からのメッセージ。
画面上に映し出されるゴシック体の文字からでもわかる素っ気なさだけど、それでも今の私にはめちゃくちゃ嬉しい。
《やったやった!いつがいい__
先輩に会いに行ける夏休みが始まるまで1ヶ月。
それは長いようで短い期間。
それはコンパスが示すことをやめる森へ誘う日々。
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