第2話 女騎士

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「ほら!なっくんも自分が王子ってこと証明してー」 「あ、ああ。じゃあ、これでいいですか?」  レオンに急かされて、ナポレオンはビストリア帝国王族の紋章が描かれた長剣を腰から抜き、受付嬢に見せた。すると、受付嬢は息を飲み、慌てて頭を下げた。 「し、失礼致しました、ナポレオン殿下!入国証と通行証でございます!お連れ様の分もすぐにお作り致しますので、少々お待ち下さいませ!」  ばたばたとレオン用の入国証発行手続きを始めた受付嬢を見ながら、レオンははてなを浮かべた。 「それにしても、なっくん、何で気付かれなかったの?」 「ユスティールには公式的な訪問でしか来たことないからじゃねぇか?」 「あー、納得。王子のなっくんは普段のなっくんの百倍カッコイイもんねー」 「うっせーよ」  ナポレオンは普段、前髪を下ろし、一般市民と変わらない服を着ているのだが、正式な場となると前髪をあげ、金・銀の刺繍が入った豪勢な服を着ることが多いので、印象が全然違うのだ。アラヴェスタでは城下を普段の格好で歩き回っていたので、普段のナポレオンの姿を知っている者しかいないが、他の都市の人々は、公の場での彼しか知らないのだから無理もないだろう。  ものの数分でレオンの入国証ができあがり、二人はユスティール内に足を踏み入れた。  そこに広がっているのは様々な屋台。果物や魚、野菜、肉、宝石等々。店長や売り子が宣伝のために張り上げている声があちこちから聞こえてくる。  世間知らずのレオンは初めて見る光景に子供のように目を輝かせた。 「へぇ、いろんなもの売ってるんだねー。あ、なっくん!画材売ってるよ!見ていこう」  本当に二十一歳の青年か、あのレオナルド・ダ・ヴィンチかと聞きたくなるくらいはしゃいでいる彼を見て、ナポレオンは呆れた顔をする。 「レオン、本来の目的は食料調達だぞ?分かってんのか?」 「分かってるよ。でも、ここを出たらしばらく来られないじゃないか。だから、色んなもの見たいんだ。いいでしょ?」  レオンは森とナポレオンの部屋以外の場所を知らない。ずっと一人絵を描いて過ごしていたのだから、世界にどんなものがあるのか分からないのだ。  いつもとは違う、新鮮な表情を見せるレオンを見て、ナポレオンはニヤッと笑う。 「ああ、存分に見ろよ?買いたいものあったら言え。買ってやる」 「やった!なっくん、男前ー!」
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