第1話 旅立ち

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 ナポレオンと父・カルロは今は不仲だが、昔はとても仲が良かった。ナポレオンも勇者になるという夢を父に楽しそうに話し、カルロも幼い彼の夢を応援してくれていた。  しかし、ナポレオンが十歳を過ぎてからは彼に厳しく接し始めた。カルロはナポレオンにも兄たち同様、国王に仕える裁判官や軍隊の騎士になってほしいと考えていたのだ。そう父に言われ、ナポレオンは驚愕した。 『ち、父上……?どうして急にそんなことを言うんだ?俺が勇者になる夢を応援してくれてたんじゃ……』 『ナポレオン、親や兄弟であっても目上の人には敬語だと教えたはずだ。あと、勇者になるなんて夢は捨てろ。いい加減王子としての自覚を持て』 『で、でも父上……、俺は勇者に……』 『王族が勇者になれる訳がないだろう』  カルロにそう告げられた日、ナポレオンは呆然とした。大好きな父に裏切られた、そう思った。その日以来、ナポレオンはカルロに対して反抗的な態度をとっている。それも軍の入団を断っている理由の一つだ。  ナポレオンはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。 「まあ、いいや。俺の返事が変わる訳じゃねぇし。で、帰る気になった?」 「…………言いたくはないが、お父上から伝言を預かっている」 「やっぱりあのクソ親父の使者か。……聞きたくないけど、アンタはそれを伝えるのが仕事だもんな。聞いてやる」  ナポレオンは呆れながら、使者にどうぞと手を差し伸べた。いくらなんでも、使者に対してこんななめ腐った態度をとるところ、王族にはいない自由な性格は幼い頃からである。使者はため息を一つついてから口を開いた。 「『いい加減にしろ、この馬鹿息子!お前は王族であり、国王に使える騎士になるのが運命(さだめ)だ。勇者などという夢をさっさと捨てろ!私を困らせるな!!』だそうだ」 「あー、予想通りだな。じゃあ、使者くん、伝言頼める?」 「では、私がその伝言を預かろう」  ナポレオンが伝言の内容を使者に伝えようとした時、後ろから聞き覚えのある声が降ってきた。瞬間、前にいる使者が膝をついて頭を垂れた。まさかと思い、ぱっと後ろを振り向くと、そこには白い愛馬に(またが)り、赤と金をベースにした豪勢な身なりに王冠を付けた四十代前後の男性がいた。 「…………ルイ十四世国王陛下、何故貴方がここに?」
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