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「彼を行かせてよろしかったのですか?」
「ふっ、あやつのことは本当に小さな頃から知っている。止めても無駄だということもわかっているからな。さて、帰るぞ」
そう従者に伝えて、ルイはナポレオンと語った日を鮮明に思い出していた。
ナポレオンが三つの時だ。まだ礼儀作法や言葉遣いが分からずにいた頃、ナポレオンはよく彼の元に一人隠れて訪れていた。そして、ナポレオンは楽しそうに叔父に言うのだ。
『ルイおじさん!おれね、おおきくなったらゆーしゃになる!ぼうけんをいーっぱいするんだ!ちちうえもなれるっていってくれたんだ!』
『そうかそうか!じゃあ、私もそんな可愛い甥の夢を応援するぞ!』
『ほんと!?』
『ああ、本当だとも。誰もお前の夢を応援しなくても私は応援してやる』
『えへへー、じゃあ、りっぱなゆーしゃになるね!』
そして、十歳になったナポレオンは父に裏切られたと目に涙を浮かべて自分の元へやってきた。
『父上は結局、俺の夢なんて応援してなかったみたいなんだ…。勇者になるなんて、夢物語だって』
『カルロの考えは王家に忠実だ。それは確かに正しいかもしれない』
『叔父上も父上と同じことをおっしゃるのか?』
悲しげな顔で自分を見つめるナポレオンの頭を優しく撫でた。
『私は違う。前に言っただろう。誰もお前の夢を応援しなくても私は応援してやると。その言葉に嘘はない』
『叔父上………ありがとう』
『気にするな。ほら!しゃきっとしろ、お前は勇者になる男だろ?』
『…………はい!』
甥との日々はルイにとって幸せなものだった。だが、自分はナポレオンの夢を応援しているのだから、彼が帝国を出ていく日は必ず来ることは分かっていた。
嬉しさもあり、寂しさもある。しかし、それでもこれは、この思いだけは変わらない。
清々しいほど綺麗な青空に向かってルイ十四世は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「頑張れよ、ナポレオン」
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