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「なかなかここのラーメン食べられないから、今夜はホントラッキーだわ。ね、ドンちゃん」
と、リコがテンション高く言った。わざと明るく言っているのだ、とマサは思った。
マサとドンはリコから引っ越すことになると1週間前に聞いてからすぐハンストを開始した。リコの父親に引っ越しを取り消してもらうためだ。特にドンのハンストは大人たちへのインパクトは大きく効果は絶大かと思われたが、リコに諭されて昨日ストライキを解除した。「メタルレア社事件の唯一の犠牲者になってほしくない」というのがリコの言葉だった。僕たちの行動を、リコは嬉しく思ったはずだ。もしかしたら、と思ったかもしれない。でも叶わないと悟った。だからもう悲しい顔をして僕たちを巻き込まないようにすると決めたのだ、とマサはリコの心中を察していた。
3人は十曽こどもの森にキャンプに来ていた。ピザ焼き体験ができるわらの家、絵本の中に出てきそうな可愛い3基の屋外お風呂、伊佐ヒノキをふんだんに使った快適なコテージ。広いグラウンドではなんでもできる。しかも十曽こどもの森の近くにあるラーメン専門「五十嵐食堂」ではこれ以上ないぐらい美味しいとんこつラーメンが食べられた。3人はまさに今、その五十嵐食堂で夕食をとっているところだった。
「キャンプでカレー作ったりするのもいいけど、五十嵐食堂みたいなところでご飯食べるのもいいよね」
「そうそう。キャンプ場だけじゃなくて、キャンプ場の周辺まで使いこなしてる感じ」
食堂のおやじさんは3人の会話に耳を済ませながら時々微笑んでいるが、カウンターの客がメタルレア社の話を始めると険しい顔になってその話に加わるのだった。
「メタルレア社は土地買い取りの期限を決めたらしいぞ。それまでに売却の意思を伝えないと話はなかったことになるらしい」
「しかしそう簡単に住んでたところを売れるかいな」
「曽木の滝の上流の地区では座り込みを始めたのもいるんだってな」
「市役所はどうするつもりなんだ、町が二分してるっちゅうのに」
「外国の会社が買い付けに来るぐらい、ここに何かあるかな」
「伊佐はごく普通の何もない田舎だけどなあ」
3人はできるだけ大人の話を聞かないようにしてラーメンを平らげ、キャンプ場に戻ることにした。
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