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キャンプ場にある3基の五右衛門風呂を手際よく焚いて、3人はそれぞれ入浴を始めた。3つ並んだ五右衛門風呂はおとぎ話に出てきそうなかわいい小さな建物の中にある。天井が開いていたり、側面の壁が大きくくり貫かれていたりするので、声をかければ隣の友人と話ができてしまう。
風呂に入りながら見上げる天の川の美しい夜空と、ドンの奇妙な鼻歌、林から聞こえる涼しげな虫の音。ふとマサは雨の日に畑から掘り出した不思議な木片を思い出した。仙人に預けてから、あれはどうなったのだろうか。
「そういえば僕たちが描いた絵をしばらく貸してほしいって言って、そのままだったよね」
マサの問いかけにドンが言った。「誰か連絡もらった?」マサが2人に声をかけた。「なし」リコとドンが同時に答えた。
その時だ。マサは出し抜けに強烈な光に包まれた。空から光の粒がすき間なく降り注ぎ、目を閉じてもその光はマサの体の中に入り込んできた。声は出せない。浸かっているお湯の感触はおろか、自分の身体すら光に溶けてなくなっているようだ。しかし恐怖はない。
息ができないほどの光に圧倒されていると、光の向こうから次々と映像が現れた。猛スピードで自分の横を通り過ぎて消えていく。物心つく前の古い記憶もあれば最近のできごともある。ただ全てどこか見覚えのある光景ばかりで、どれもお気に入りの思い出を切り取ったものだった。ずっと見ていたいと思っていると、父親の疲れた横顔や泣いているドンとリコ、さっき五十嵐食堂で話していた大人たちの会話、今入っている五右衛門風呂や黄金色に輝く稲の畑が無残に壊されていく光景も現れた。マサは激しく動揺した。心がえぐられていくのが分かる。涙があふれる。もう見たくない、と願った映像の最後に、ひときわ明るく輝く7つの流星が頭のすぐ上を通りすぎていった。溺れるほどの光の海は流星が去るのと同じように徐々に薄らぎ、間もなく五右衛門風呂の景色が戻ってきた。
マサは現実に帰ってきていた。しばらく呆然としていたが、自分で息を止めていたことに気づいて、マサは大きく息を吸って大声で叫んだ。
両隣の五右衛門風呂からも同じ声が聞こえた。3人は同じものを見ていた。
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