0人が本棚に入れています
本棚に追加
*
マサは父親に移動博物館の詳細を聞いた。思った通り、伊佐市に所縁がある展示物が多く、その中には薩摩隕石も含まれていた。どう拝借するかは別問題だが、1つの隕石は見つけたも同然だ。移動博物館は8月最後の週にやってくる。
残りの2つを捜しに3人は隕石が落ちた地点を訪ねた。
しかし、予想通りの展開だった。落下地点とされる地名のバス停に立ってみてもそこから得られる手がかりは皆無。公民館に行ってみても隕石に関する資料は全くなかった。このあたりに落ちたらしいと教えてもらった場所に行っても昔の面影を残しているのか残していないのか分からないただの草原。近所の人に聞き込みもしたが、明治19年に隕石が落ちたことすら知らない人が全てであった。
一方で予想外だったことは、立ち入ろうとした地域が、すでにメタルレア社の所有地になっている場合があったことだ。伊佐市内のどこにでもありそうな林や土地が急によそよそしく子どもたちの立ち入りを阻んでいる。鉄条網で囲まれた土地の真ん中に伊佐市の天然記念物に指定された木が立っていて、その木の周りにも鉄条網が巡らされていた。
「あそこだけ伊佐市の飛び地だ」マサが呟いた。「四面楚歌」リコが反応する。
これまで畑の中から数々の埋蔵文化財を掘り当ててきたドンは、隕石の落下地点とされる地域から石をいくつか拾うようにしていたが、「全然ピンとこない。閃かない」とブツブツ文句を言いながら石を袋に入れているのであった。
平出水の千里原には隕石の落下地点を示す白い標柱が立っている。比較的新しい標柱は、本当にそこに隕石が落下したのかの説得力に乏しい。それでもこの周りを重点的に調べればよいという意味では多少心強いものだ。藪に入って130年前の痕跡を探す。3人が干し草の中から針を見つけるようなものだ、という例えに思いを馳せていると、通りかかった老年の女性が話しかけてきた。リコは隕石の話をした。しかし案の定老女は隕石のことは全く知らないとのことだった。
最初のコメントを投稿しよう!