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「お願いだから、マサ、ふざけた、ことは、言わないで、くれるか」
語気がとても強く、父親を激しくイラつかせてしまったことが分かった。それでも絶対に引き下がるわけにはいかない。
「お前、本当に最近おかしいよ。なんだ、ほら、五右衛門風呂のときからだ。あのお陰で五右衛門風呂の一酸化炭素濃度を調べたり水質検査したり風呂を消毒したり、市役所が大騒ぎだったんだぞ。父さんどんな肩身の狭い思いしたか、マサ、お前知ってるのか?ああ、いいよな子どもは。そんなのお構いなし。夏休みは隕石さがしとか資料館めぐりとか、冒険ごっこだ。さぞ楽しかろうよ。絵日記も弾むよな。父さんの絵日記は毎日真っ黒だ。塗りつぶしだよ。何もいいことなんかない。残したくない思い出ばかりさ」
父親は疲れ切っていて、子どもを相手にまともに恨み節を口にしている。このまま泣き出してしまうのではないかとさえ思った。
「伊佐市に、残したくない思い出ばかりでいいわけ?」
マサは静かに言った。父親の顔色が変わる。
「毎日真っ黒な絵日記でいいのかって聞いてるんだ。僕はそんなの、絶対にイヤだ。許せない。父さんも同じ気持ちでしょ?こんな毎日、もうやめようよ。曽木の滝のブルドーザー、もう時間がない。でも僕なら止められる。そのためには隕石が必要なんだ。お願いだからそれを貸してよ」
「何を偉そうに!遊びじゃないんだ!父さんも母さんも、大人はな、子どもたちの盾になっていろんなものから必死に守ってるんだ。お前に何が止められるっていうんだ。分かったような口を利くんじゃない!」
マサの父親の怒声が会場に響く。今まで彼がこんなに大声を出したことはなかった。身のすくむ怖さだった。ただマサも負けなかった。
「分かってないのは父さんだ!五右衛門風呂でのできごとは妄想だって決めつけて、目に見えるものが全てだなんて、誰が証明できるのさ。理解できないことは悪だって決めつけてるのは父さんだろ。僕は見たんだ、本当に大事なものは目に見えないって!」
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