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雨を心待ちにしている男がいる。ドンだ。この日も朝から雨だったのでドンは出かける準備をしていた。
「雨の日には、畑で矢じりが取れる。」とドンは小さい時から言っていた。雨に打たれた畑の畝から矢じりや土器が出てくるのだ。ドンはこの遺物を見つけることに生きがいを感じていた。ドンに急かされながらマサとリコも合羽を着て穴場スポットだという忠元公園の近くの畑に繰り出すところであった。
「ドンちゃんは食べることと矢じりと、どっちが好きなの?」
リコが尋ねると、決まって「非常に難しい質問だ。できれば矢じりを食べて生きていきたいな」とドンは答える。これまでドンが見つけてきた矢じりや土器片は200個を超え、専門家を唸らせ新聞を賑わすような見事な遺物を発見したこともあった。
「お!これ臭うぞ!伊佐のゴッドハンド、今日も新発見なるか!」
ドンが言いながら畝から飛び出した木片を引っ張り出した瞬間、ドンの身体は妙な緊張感で強張った。今日はすでにいくつかの土器片を見つけていたマサとリコが、ドンの様子がおかしいと気づいたとき、ドンは食い入るようにその木片を覗き込んでいた。
「ドンちゃん、どした?」
マサがドンに話しかけると同時に、リコはドンのすぐ近くの畝から新たな木片を見つけて引っ張り出していた。ドンが見つけた木片と同じように表面に何か刻まれている。ドンに駆け寄ったマサも、自分も板を踏んでいることに気付いた。恐る恐る足をどけてみると、そこには丸い雲から雨がザーザー降っているような絵が刻まれている古い木の板があった。
「マサ、これは多分普通じゃないぞ。現場保存だ。センニン呼んできてくれる?」
マサは忠元公園のすぐ近くに住んでいるセンニンの家に走った。センニンは昔からここに住んでいる。年のせいかボーッとしている見た目からは想像がつかないが、噂では多くの資格を持ち、世界中の有名大学をいくつも卒業しているという。自分でも年齢が分からなくなっている上に世の中の色々なことに詳しいので、もはや妖怪の域に達していると周りの子どもたちは怖がっているが、3人はこの風変りな老人と特に仲が良い。彼のことを親しみを込めて「仙人」と呼んでいるのだった。
仙人がドンとリコのところに到着したころ、2人はがっくりと肩を落としていた。
「マサが見た木の板にも絵が描いてあった?」
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