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近づいてくるマサと仙人に向かってドンが言った。「うん、仙人にもその話しをしながら来たとこ」とマサが答えると、「消えちゃったのよ」とリコが言った。土の中から引っ張り出して間もなく、刻まれていたと思っていた絵が跡形もなく消えてしまったというのだ。
仙人は3人の視線の先にある木片の端を少し強く指でつまんで匂いを嗅いだり舐めたりしてその感触を確かめた。
「炭化の感じからして、こりゃかなり古い木片だよ。矢じりと同じぐらい昔じゃないかの」
「ホントはこれに絵が描かれていたんだ。だから仙人を呼ばなきゃと思って」
「見てるうちにどんどん消えてっちゃったの。雨に流れるみたいに」
仙人はドンとリコの話を聞きながら目をキラキラと輝かせた。
「3人とも、ウチに来てその絵を描いてみせてくれんかね。忘れないうちに」
仙人は木片の1つをヒョイと拾い上げると、3人に先駆けて家へと歩き出した。
「お前たちは絵心に非常に難ありじゃ。むしろ致命的じゃな」
お互いに描いた絵を見比べながらここはなんだ、それはなんだと文句を言い合っている3人を見て笑いながら、仙人は得体の知れない飲み物を飲んでいる。
「3つ並んだ雲から雨がザーザー降りの絵と」これはマサが描いた絵だ。
「おたまじゃくしが7匹と斜めの矢印が2つ」こちらはドンの絵。
「そして2人の棒人間が何かを持って歩いている。」
「いいえ、きっと3人目がいたわ。板が割れてて絵も途中で切れてた」リコが付け加えた。
「絵が消えていったから忘れないようにすっごい集中して見てたつもり。かなり近いと思うよ」ドンが言った。
「僕は一瞬しか見てない」マサが鼻の穴を膨らませて主張した。
「おもしろいのは、2000年以上前の木の板に絵が描かれていて、それが消えてしまったってことよの。まるで時限装置じゃ」
仙人は目をつぶって揺り椅子を前後させてしみじみ言った。
「信じるの?」
リコが仙人に話しかけると、「仮にドッキリだったとしても、ドッキリでしたの看板がどこで出てくるのか知りたいもんじゃ」と仙人が笑ってリコも笑い返した。
「彫ってあったと思ったんだけどなあ。消えるなんて」
と、ドンは仙人が持ち帰ってきた木片を触りながら悔しそうにつぶやいた。
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