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第1話
「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」
ホームルームは先生の一言で終わり、クラスメイトたちが立ち上がる。
私もそうそうにかばんを肩に下げ、教室を飛び出した。
廊下を小走りで走り、学校の門を出たら全速力でバイト先へひた走る。
私、多田美月は高校になってから、楽器屋でバイトをしている。商店街にある楽器屋兼カフェのお店で昔から遊びに来ていた。最近では楽器屋の中にカフェも営んでいて、商店街の人の憩いの場ともなっている。そこでは時々、ピアノの音が聞こえる。
「お!美月ちゃん、今日もバイトかい?」
「うん!寄っていってね」
商店街の肉屋の店主に声を掛けられ、笑顔で挨拶を交わす。
店の前まで来て、服装をチェック。1つに束ねていた髪をほどいて、整える。
うずうずした気持ちを落ち着かせるように深呼吸して、ゆっくりと店の扉を開いた。
扉についたベルの音が私の到着を知らせる。
「こんにちは、美月ちゃん」
扉の開いた音に気付いて、エプロン姿の男性が穏やかに笑って出迎えた。
「こんにちは、海斗さん。今日も1日頑張っちゃいますからね!」
海斗さんの前まで来て、にっこり笑う。
「ありがとう。今日もよろしくね」
海斗さんが私の頭を優しくなでる。その手が気持ちよくてどこかくすぐったいけれど、妹にしか見られてないと実感し時々悲しくなる。
ここの店主の息子で、カフェ担当の鈴村海斗27歳。10歳の年上の私の好きな人。
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