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「もう子供扱いしないでくださいよ」
プクッと頬をくらませ、抗議してみる。本当は怒っていないけど、長年、妹のように接してきた癖でこのように反応してしまう。
「はいはい」
ポンポンと頭をたたいて、海斗の手は離れた。
海斗は昔からよく遊んでくれる近所のお兄さんだった。学生のときから、楽器屋の手伝いもして、その合間には私にピアノを弾いてくれた。高校からカフェをやりたいといって、料理の専門学校で勉強した。その真剣さを認めた店主のおじさんが数年前に楽器屋を改装し、楽器屋兼カフェのお店に作りかえた。今ではちょっとした商店街の人気店となっている。
「最近、商店街に人がいなくなったな」
「そうだね。まぁ、もう少しで世界自体もなくなるがな」
アハハと笑い声が、商店街の方が集まるテーブルで聞こえる。世界の終わりを知らせると同時に、世界の政府たちがとった行動は精神安定剤を世界中にまくという行為だ。恐怖で混乱を招かないように、世界の終わる日まで日常を遅れるように、恐怖という感情を制限する薬を摂取させた。こういう薬が作れるなら、隕石の落下を防ぐ装置を作ればいいのにと思うが、そんな簡単にできるものではないのだろう。
耳でお客さんの話を聞きながら、テーブルを拭く。
「美月ちゃん、これお願いね」
「はーい」
海斗が熱熱のオムライスを私に差し出す。
「おいしそう」
目をキラキラさせながら言うと、海斗は苦笑した。
「あとでまかないで作ってあげるよ」
「やったー」
こういうところが子供っぽいんだろうなと言ったそばから、反省してテーブルに向かう。
放課後の時間はこのような穏やかな時間を流れている。
夕方は忙しくなるが、カフェの仕事は楽しい。
忙しい中でも、こっそり海斗を見る。
(海斗さんと一緒にいられる時間は胸が温かくなるのはなんでなんだろう)
しかし、あと3週間で世界は終わってしまう。この時間も失ってしまう。もっと海斗さんといる時間がほしい。
一緒にいられるだけでいいと思っていた私はどこか焦り、欲張りになっていた。
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