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カフェ閉店後、私は店の片づけをした後、海斗さんが家まで送ってくれる。
バイトを始めてからの1日最後の私の楽しみとなっている。
「じゃあ、出るよ」
「はーい」
お店の鍵を閉めて、二人並んで歩き始める。
いつも私はわざとゆっくり歩くと、それに合わせるように海斗もゆっくり歩く。
そんな優しさが嬉しい。しかし、バイトを始めてから、私たちは手をつないだことはない。
付き合ってないから当たり前なのだが、届く距離にいるのに触れられないことは、幼い頃よりも海斗と距離ができたみたいでもどかしさを感じる。
(少しぐらい触れてもいいんじゃ…)
ふざけて手を握るぐらいだったらいい気がして、そっと海斗の手に手を伸ばす。心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、あと1cmのところでためらって止まってしまう。
「美月ちゃん?」
何も話さない私を不思議に思ったのか、海斗がこちらを見る。顔を振る前に、さっと手をポケットに引っ込めてにっこり笑った。
「どうかした?」
「顔赤いけど大丈夫?」
「大丈夫だよ。7月だから少し暑いだけだよ」
うちわを仰ぐように手をひらひら動かし、顔が赤くなっている理由をごまかす。
「そうだ!今日も世界の終わりのこと話しているお客さんいたね」
今日お客さんの話を思い出し、話題を変えた。
「そうだね。みんな、本当はどう思っているだろうね」
夜空を見上げながら、海斗はつぶやいた。
「海斗さんは世界が終わるまでにやりたいことある?」
「そうだな…。かわいい妹のような子のわがままを聞いてあげること、かな」
いたずらが成功したかのような笑顔で、海斗は私を見た。
「真面目に答えている?」
私の得意のプクっと顔で怒りを表してみると、優しくまた頭を撫でられる。
「じゃあ、この年まで料理ひとすじだったから、彼女を作りたいかな」
「今までいなかったの?」
目を丸くして驚くと、海斗は苦笑いをした。
「そっちは興味なかったからね。今思えばいたら楽しかったのかなってね」
彼女がいなかったことはうれしかったけど、何回か海斗が女性といるところを見た気がした。
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