袖の裏側

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 私の目の前で三島雪は涙をこぼしながらブレザーの袖で涙を拭いている。  今は放課後、私と雪のいる教室には他に誰もいない。  雪はずっと泣いている。人には言えない秘密を私に話しながら。  雪の秘密、それは私も今初めて知った。  少し話は変わるが、私達の学校には変わった校則がある。  この学校は卒業後、制服を学校側に返さなければいけない。ブレザー、シャツ、スカート、靴、全て。  なので卒業式に好きな相手に制服の第2ボタンを渡すということが出来ないのだ。  しかし今二年生でまだあと一年この学校に通わないといけない雪はいけないことをした。  雪は今日卒業した先輩にシャツの第2ボタンではなく、ブレザーの袖のボタンをちぎって渡したのだ。  雪はその部分なら隠し通せると思ったのだろう。  しかし、ついさっき放課後になったばかりの時、帰ろうとする雪の袖口を私が見てしまったのだ。  私はそれを見逃すことは出来ない。  なので、今放課後の教室で二人きりの説教の時間が流れているのだ。  雪はまだ泣いている。  私はもう学校に返す制服を傷付けたことへの説教は終わらせている。その説教の時の雪は顰め面をするだけで泣きはしなかった。  泣き始めたのは今行っているもう一つの説教、というより諭しの部分だ。  私は雪には将来普通に幸せになって欲しい。  だから私は雪の手を掴みもう一度同じ台詞を言う。 「雪、女同士の恋愛に未来は無いわよ」  雪は泣き止まない、何度も涙を拭った袖は裏側まで湿っている。同性の先輩を好きになったという、雪のその秘密はおそらくその先輩と私以外知らないだろう。  同性愛、それは制服を破くことより重い罪だ。  私は雪にそれを由とする人生を歩んで欲しくないのだ。
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