大入高校文芸部

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大入高校文芸部

 美しい桜吹雪の向こうに、大入高校の校舎が見える。正門に掲げられた看板には『祝、御入学』の文字が躍っていた。校庭ではテニス部や茶道部の上級生が、熱心に新入生の勧誘をしていた。浮かれ切った峻輔の目には、女子部員の姿しか映らなかった。  峻輔は廊下ですれ違う、年上のカップルを見ながら、期待に胸を膨らませた。……楽しい青春、美しい青春、そして、恋人のいる青春。峻輔は図書室の前で立ち止まると、爽やかな笑顔を作って見せた。……さあ始まれ、俺の幸福な三年間。  だがそこへ待っているのは厄介な不良少年だった。  図書室の貸出し机に足を投げ出した原口勝至が、周りの生徒に絡み始める。 「おい、なんで一人も新入部員が来ねぇんだよ? あぁ~ん?」  デカい体にリーゼントできめた強面の原口に、誰も口答え出来ない。離れた席で受験勉強をしていた女生徒たちが一斉に目をそらす。 「ち、つまんねぇな。何のための部活なんだよ。あぁ~ん?」  部屋の外から図書室の戸をノックする音が聞こえた。原口は女生徒を期待し愛想良く揉み手で迎える。 「はい待ってました。扉は開いていますよ」  戸が引かれ、緊張の面持ちで峻輔が部屋に入ってくる。     
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