相手は全社の人気者

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「じゃあ、営業に行ってきます」 「おう、木津。成果を上げてくれよ」 気が重くなる言い方だ。圧をかけないで。 行くからにはそれなりに成果を出すつもりだけど。 期待されているのは分かるけど、言葉が重い。難しいな、伝え方って。 頭切り替えて、行きますか。 総務部で鍵を借りて「行ってきます」と挨拶したら階段を駆け下りる靴音。 「木津くん、行ってらっしゃい」 え、まさかお見送りとか? 「じゃあね」 ですよね。でもお顔が拝めて嬉しいです。 「綺田さん、今日お誕生日ですよね。おめでとうございます。後でお花でも」 聞き捨てならない。え、お誕生日? 総務部もいい事言うなあ。 「お花はいいですよ。食べれないから」 「じゃあ、ケーキを」 「クリーム苦手です」 「では、内勤用の靴とか如何です」 「拘りがあるので要らないです」 「それなら、記念写真の撮影を」 「俺なんか撮影しても楽しくないでしょ。誰か欲しいんですかね。おかしいですよ」 切り捨てるなあ。ばっさりか。 あれでも僕とは態度が違う気がするけど。笑顔もないな。ご機嫌ななめ? 「もうすぐ主任ですよ。昇進祝いを」 「成ってからで結構ですよ。それに、俺は飲めません。ごめんなさい」 噂通りの壁だ。あれでも、やっぱり、僕とは違う態度だよな。 「お言葉は有り難いのですが。どうして俺なんですかね。分からないな、好きな人にさえ気づかれないのに」
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