車の後ろにいた男

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「別に、優しくなんかない」  どっと疲れが出た感じで車を出した。 「いや、ものすごい心霊スポットだ」  後ろの男子が鼻で笑って言った。 「やっぱり? やっぱり?」  嬉しそうに彼女が言う。  僕なんてしょせん、そういう存在だ。こっちの気も知らない彼女は、無邪気にスリルを楽しんでいた。  ただ、僕には自分が心霊スポットと言われてもよくわからない。生活をする上で困ることはない。霊が見えるわけでもないし、それで怖い思いをすることもない。  変わらない毎日を過ごしているだけだ。 「優しいというか、頼まれたら嫌と言わないんだろうな」  後ろの男子が自分はなんでも知っているといわんばかりに言った。  おまえは僕の何を知っているんだ? と言おうとしてやめた。  波風を立てたいわけでもなかったから。  でも、それを聞いて、彼女はニコっとする。 「だから、優しい人なんだよ」  そう言われてこそばゆくて仕方がなかった。 「優柔不断なだけだろ?」  後ろの男子も心なしか楽しそうに言っていた。 「『優』しいって入ってるし」  彼女は僕を擁護してくれていたのか、そう言っていた。  優しいはともかく、優柔不断は否定しないけど……。  僕は自分では何も決められない。  自分から何かしようと思い立ってすることは、とても少ない。  その後、廃屋に行ったはずだけど、その時のことは覚えていない。ただ、行きの車の中のことは覚えていた。  でもこの時、後ろに乗っていた男子が誰だったかは覚えていなかった。  ゼミの誰かだということはわかるのだが……。
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