2人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「別に、優しくなんかない」
どっと疲れが出た感じで車を出した。
「いや、ものすごい心霊スポットだ」
後ろの男子が鼻で笑って言った。
「やっぱり? やっぱり?」
嬉しそうに彼女が言う。
僕なんてしょせん、そういう存在だ。こっちの気も知らない彼女は、無邪気にスリルを楽しんでいた。
ただ、僕には自分が心霊スポットと言われてもよくわからない。生活をする上で困ることはない。霊が見えるわけでもないし、それで怖い思いをすることもない。
変わらない毎日を過ごしているだけだ。
「優しいというか、頼まれたら嫌と言わないんだろうな」
後ろの男子が自分はなんでも知っているといわんばかりに言った。
おまえは僕の何を知っているんだ? と言おうとしてやめた。
波風を立てたいわけでもなかったから。
でも、それを聞いて、彼女はニコっとする。
「だから、優しい人なんだよ」
そう言われてこそばゆくて仕方がなかった。
「優柔不断なだけだろ?」
後ろの男子も心なしか楽しそうに言っていた。
「『優』しいって入ってるし」
彼女は僕を擁護してくれていたのか、そう言っていた。
優しいはともかく、優柔不断は否定しないけど……。
僕は自分では何も決められない。
自分から何かしようと思い立ってすることは、とても少ない。
その後、廃屋に行ったはずだけど、その時のことは覚えていない。ただ、行きの車の中のことは覚えていた。
でもこの時、後ろに乗っていた男子が誰だったかは覚えていなかった。
ゼミの誰かだということはわかるのだが……。
最初のコメントを投稿しよう!