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真っ白な車体にグリーンのラインが入った気道車は、路線復旧後に導入された新型の車両だった。かつては空調設備すら登載されていない旧国鉄時代の車両が運行されており、この時期の車内は蒸し風呂のように暑かったのを覚えている。僕らの目の前で停車した気道車は、ブルンとエンジンをふかすと、空気圧制御装置の作動音を響かせて乗降口の扉を開けた。
「ほら、乗るよっ」
希海はそう言うと、ステップに足をかけ、軽やかに車内に乗り込んでいった。この駅舎も、その設計基準が古い。だから車両乗車口に比べてプラットホームが少しだけ低いのだ。大股で乗降口のステップに足をかけると、扉横に設置された銀色の手すりに捕まって、車両内に入り込む。
「今年の夏は暑いね」
振り返った希海は、そう言いながら、前から三つ目の四人掛けボックス席で立ち止まると、奥の窓際に座った。「そうだね」 とぎこちなく答えた僕は、彼女の隣に腰を下ろす。
「ここ、良いかね?」
僕らのすぐ後から乗り込んできた老人が、座席の脇で重そうなリュックサックを網棚の上に乗せようとしていた。
「ああ、手伝いますよ」
僕は急ぎ席を立つと、老人が押し上げようとしているリュックサックを網棚の上に載せた。
「どうも、ありがとう」
老人はそう言って、僕らの向かいの席に腰かけた。小さな警告音と共に乗降口の扉が閉まると、気動車特有のエンジン音が車内に響き渡る。程なくして気動車は灰色のプラットホームから離れていった。
「まぶしくない?」
午前の日差しが、ちょっとだけ熱を帯びて窓ガラスから車内に飛び込んでくる。
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