プレイボーイが恋に落ちるとき

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 カラン、カラン、と小さくドアベルが鳴った。ハーネスを付けた薄茶色の大型犬と、女の人が入り口に立ち止まっていた。盲導犬だ。    「いらっしゃいませ」  ほんの少しだけ大きめに声をかけ、カウンターから出てテーブルに案内しようとしたその時、盲導犬が歩き出した。思わず立ち止まって行き先を見守ってしまう。  目当ての場所を目指すように迷いのない足取りで歩いていき、杏さんを見上げた。杏さんが隣の空いているテーブルを指差すと、犬は心得たように移動してお座りした。ふさふさの尻尾を床を掃くように少し左右にふっている。  「ここ? あの、この席でいいですか?」  女性は犬に話しかけた後、振り返って言った。おそらく先ほど「いらっしゃいませ」と声がした方に見当をつけて言ったのだろう。彼女が見ている方向は、僕が立っている位置とは少しずれている。 「はい。そちらでけっこうでございます。椅子をお引きしますね」  と言って椅子を引いた。体に触れていいものが迷ったが「腕を失礼します」と声をかけてから、彼女の肘のあたりに手を添えて、椅子に誘導した。  「ありがとう」     
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