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お祝いの気持ちを込めて、アペリティフ(食前酒)のキール・ロワイヤルを渚さんの前に「どうぞ」と置く。車を運転して帰る杏さんには、ノンアルコールのシードル(りんごのお酒)を出す。両方とも炭酸入りなので、飲みやすいが甘ったるくはなく、口当たりがさわやかだ。
「人数はエスペランサに入るだけ。日にちもお正月が明けたあとでいいの。日曜日はもともと定休日なのよね? だから日曜日ならいい? マスターの休みをもらっちゃうことになるけど」
「わかりました。立食でよければ、三十人は入れると思いますよ」
「じゃあ、三十人でいいわ。それでね、当日は杏さんにオカリナを吹いてもらうの。今日はその打ち合わせ」
「オカリナ。いいですね。優しい音色だったから、結婚式にも合いますね」
「だからお化粧とか、当日の服とか。杏さんと相談していたの」
「ああ、渚さんの」
花嫁なのだから服やメイクを検討するのは当然かもしれないが、相談する相手として杏さんはふさわしいのだろうか。男ながらやや疑問だ。今日の杏さんは特別だが、いつもの杏さんの服はオーバーオール一辺倒なのだから、オシャレというにはほど遠い。
「違うわよ。オカリナの演奏を頼むから、杏さんの、よ!」
渚さんは軽くにらんできた。けれど叱っている口調が冗談なのは、目じりに優しく小じわが出来ているのですぐわかる。
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