デザインカプチーノに心を映して

6/15

236人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
 「まあ、杏さんの変身は大成功だったわ」渚さんは満足げに、細かな泡が立っているグラスを傾けて、勢いよく飲んだ。「マスター、意外と分かりやすいから」  分かりやすい? 何がだろう? 少し引っかかったが、ちょうどスパゲティが茹であがった。鍋に沈めてあったステンレス製のてぼ(持ち手付きのザル)を持ち上げて水をきり、麺を二つのフライパンに分けて入れる。フライパンをあおると、麺とソースが宙を舞って混ざり合う。スパゲティは出来上がったらすぐにお出しするのが信条なので、会話のひっかかりなどはなかったことにする。  スパゲティをトングでつまみ、お皿の上で手首をひねって、山型に盛り付ける。お皿の縁に付いてしまったソースを丁寧に拭ってきれいにしたら、出来上がりだ。  同時に出来上がった二皿を、順番に二人の前に置く。     「美味しそう! いただきます」    「取り皿、お使いになりますか?」  「あ、いいね。杏さん、少し味見させて? マスター、取り皿ください」  「マスター、他のお客さんもいないんだし、座って。打ち合わせも兼ねて話しましょう」  スパゲティを取り分けながら、渚さんが言った。「ホラホラ」と僕を急かす。放っておいたら、椅子を運んできそうな勢いだ。甘えて、カウンターの中に置いてある、背の高いスツールに寄り掛かるような感じで浅く腰掛けた。         
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

236人が本棚に入れています
本棚に追加