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なにもせず座っているのも落ち着かないので、食後にサービスしようと、座ったままでコーヒーを煎れる。
「あ、アプリコットコーヒー? 飲みやすいよね。これなら私、ブラックで飲めるもの」
そういえば、と渚さんが続けた。
「杏さんはブレンドでもブラックだったわね」
「あ、はい。コーヒーの香り好きなんですけど、私、鼻がよくて。犬みたいなんですけど」
「ミルク入れると、コーヒーの香りが変わりますものね」
杏さんの家で解き明かした秘密の答え合わせをしたくなって、杏さんの瞳を覗き込む。
目を見開いて杏さんは僕を見つめ返した。顔を伏せるのではないかと思っていたので、油断していた。目が出会う。周囲の音が消え、息ができなくなる……。
杏さんの睫毛がゆっくり降りて瞼が閉じ、また開いた。まるでそれが呪縛を解く術式でもあるかのように、渚さんの話し声が戻ってきた。
ケンちゃんがローカル番組のレギュラーになったこと、ロケに行くと必ずお土産に耳かきを買ってきてくれるので、家のあちこちに耳かきが置いてあることなどを嬉しそうに話している。
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