デザインカプチーノに心を映して

10/15

236人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
 「はい。そういうことになりますねえ。一番得意なことで勝負できるのは、楽しいし勝率もあがりますし、幸せなことですね。不思議なことに、得意なことはもし失敗したとしても、またやってみようっていう気になれるんですよね」  一番得意な事で勝負。杏さんの言葉が胸の奥に響く。心臓が熱を持つ。そうか、僕は間違ってない。  (蒔田、ごめん。僕は今から抜けがけする)心の中で蒔田に手を合わせて謝った。「がんばって」渚さんの帰り際の言葉が耳によみがえる。  「杏さん。カプチーノを淹れるので、飲んでいただけますか?」  唐突な提案に、杏さんはちょっと不思議そうに首をかしげたけれど、唇の端っこをきゅっと上げてくれた。  深呼吸をひとつ。杏さんに、今までで一番おいしかったと言ってもらえるように、僕はカプチーノを淹れよう。そしてなんどもなんども練習した絵を、まっしろなフォームミルクに描く。杏さんに気持ちを届けるのなら、僕のいちばんで伝えたい。    杏さんの前に静かにカップを置く。杏さんはカップを覗き込み目を見開いたかと思うと、今度は細めた。唇をひきむすび、また耳まで真っ赤になった。そしてしがみつくように両手でカップを挟んで持った。  杏さんは猫舌だからすぐには飲めない。カップの中に入っていってしまうんじゃないかと思うほど、身動きもせず見つめている。  カプチーノを見つめる杏さんを僕は見つめる。     
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

236人が本棚に入れています
本棚に追加