デザインカプチーノに心を映して

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 「あの、そんなに見ないでくださいよぅ。緊張するじゃないですか……」  カップをもちあげようとした杏さんが、黒い瞳で僕を見上げて小さな声で言った。  ははっ、と笑ってしまった。困った顔がかわいかったから。  「杏さん。カプチーノに絵を描くの、僕が一番得意な事なんです。だから今日、届かなくてもまた描きます。得意だから、何度でも」  僕は手近なスツールに腰かけてカウンターに肘をついて顎を乗せ、杏さんがカップのふちに唇を付けてそっと飲む間ずっと見ていた。カプチーノには、杏さんにひざまずいてハートを差し出す僕が描かれている。飲んでくれるまで、ずっと見ていた。僕の気持ちは杏さんの中に吸い込まれてきっと芽吹く。なぜなら杏さんは「育てるのが得意」だから。  杏さんはカプチーノを全部飲んでしまうと、バッグの中から小さな包みを取り出した。ちょっと不格好な包み方でリボンがかけられている、見覚えのある小さなプレゼントだ。  「あの。これ、私の一番なんです。いつも持ってきていて……。やっと渡せました」  消え入りそうな声で、杏さんは言った。小さな手で差し出されている包みの中身は見なくてもわかる。杏さんの一番。チャボさんの卵だ。  「あ、杏さん!」     
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