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お礼を言われると、これでよかったのかな、と僕は少しホッとした。今度、視覚障碍者の方のサポートの仕方を勉強しておこう、と心の中にメモする。
「かわいいですね。ゴールデンレトリーバーですか?」
「似ていますけど、この子はラブラドールレトリーバーなんです。あのメニューが見えないのですけど、コーヒーは……?」
「はい、何種類かございます。おすすめはブレンドとアプリコットコーヒーです。それからカプチーノやカフェオレ、野菜ジュースなどもございますが、どういったものがよろしいでしょうか?」
「ええと。アプリコットコーヒーって初めて聞きました。じゃあそれにしようかな。アイスで、でも氷抜きでお願いします」
「承知いたしました。あの、すぐには無理ですが、今度点字のメニューをご用意しておきますね」
本当は他にどんなメニューがあるのか、全部知りたいだろう。けれどすべてのメニューを教えてもらうのは気が引けたのだろうと思うと、申し訳ない気がした。点字のメニューがなかったことに対してではなくて、あらかじめ点字のメニューを用意しておくということにまったく気が付かなかったことに。
「えっ! 本当ですか? 嬉しい! あの、もし点字のメニューを作っていただけるなら、点字訳のボランティアをしている人、ご紹介しましょうか?」
表情を明るくして早口で言う。
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