プレイボーイが恋に落ちるとき

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 「ぜひお願いいたします。とても助かります。調べなければ、と思っていたところでした」  「帰る時に、点字訳のボランティアをしてくれる団体さんの名刺をお渡ししますね」  彼女が口をつぐむと、さりさり、さりさりという音がした。いつの間にかテーブルの下に伏せの状態で丸くなっていた犬が、しっぽを振って小さな音をたてているのだ。  「ワンちゃん、ご機嫌なんですね」  「そうですね。でもどうしてかしら? この席も案内される前に、この子が選んだような気がしたんですけど違いますか? これまでそんなことなかったんだけどな」  杏さんをじっと見つめていた犬が、自分の話題が出たとわかったのか、女性に視線をうつして少し強めにサリサリと尻尾をならす。女性はテーブルの下に手をのばし、犬を優しく撫でた。  「まあ。お前。どなたかいい人、見つけたのね」  「あの、お邪魔しちゃってすみません」  杏さんが申し訳なさそうに声をかけた。    「あら、いいえ。でもどうしてかしら? この子に声をかけてくださったわけでもないのに。この子は人間好きだから、声をかけられたりすると、寄って行ってしまったりすることはあるんですけれど。     
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