プレイボーイが恋に落ちるとき

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 ドアから真っすぐにあなたの所に行ったんですよ。どうしてもあなたの側に行きたかったみたい。犬を飼っていらっしゃるのかしら? でもそれにしても……?」  とても不思議そうだ。  「犬は飼っていないんです。鶏とチャボとヤギは飼っていますけど」    と杏さんは言って、女性と同じように首をかしげる。  「ああ、もしかすると」と杏さんはふと思いついたように言った。「今朝、草むしりをしたので土っぽい匂いがしたのかもしれませんね」  「ああ、そうかもしれないですねえ」  と女性はうなずくと、手をのばしてまた犬を撫でた。撫でられている間、犬はただ機嫌よく目をつむっていたが、女性が手を引っ込めると、また杏さんをじっと見つめた。犬の目というのは、どうして「好き」という感情をはっきりと表すことが出来るのか、本当に不思議だ。杏さんを見つめるラブラドールの目は「好き」どころか「大好き大好きすごく好き!」と雄弁に語っていた。杏さんがその熱い視線に根負けするように、チラッとラブラドールを見るたびに、すかさず尻尾がサリサリと音をたてた。  「杏さん。草むしりしてきたんですか?」  唇に笑みを昇らせて、蒔田が杏さんに尋ねた。  「はい。もう大分涼しいですから、そんなに草は生えないんですけど、やっぱり少しは」  「オーガニックの基準に違反するから除草剤は使わないんですか?」     
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