プレイボーイが恋に落ちるとき

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 「それもありますけど、土がね、しまっちゃうんです。除草剤を使うと。しまっちゃうというのは、土が硬くなっちゃうっていうことですね」  「土が硬くなっちゃうんですか……」  「そうですね。土が柔らかいと、お野菜も柔らかく実ります。やっぱり土からなんですよねえ」  杏さんはにこにこしながら言う。  「土から、か……」  蒔田はコーヒーをごくりと飲んだ。  「杏さん。私ね。人間関係って()だけでいいって思っているところがあって。つまり今楽しいとか居心地がよければいいやって。でも土から……、そんな風になんというか見えないようなところから育てる。人のよって立つところから見る。そういうのも、いいかなって思っちゃいましたよ。杏さんを見ていて。」  蒔田は眉間にも頬にも力が入っていない顔で言った。僕はいつも見ている顔だけど、女性の前ではいつもカッコつけているから、他の人には見せているところを見たことがない顔だ。でも僕に見せる顔とまったく同じではなかった。ああ、なんということだ。蒔田の目はラブラドールと同じように、杏さんが好きだとものがたっている。  「ああ、ワンコも今現在の感情しかないから、そういうところ、ありますよ」  隣のテーブルから飼い主の女性が言った。  「ただいったん信頼すると、ずっと裏切らないですけどね、ワンコは」     
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