プレイボーイが恋に落ちるとき

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 パサリ。僕は裏切りませんよと言うように、ラブラドールのしっぽが床をひとつ、打った。  コトリ。「どうぞ」僕もアプリコットコーヒーを彼女のテーブルに置いた。マスターという立場上、お客様の話に口を挟むことはできないけど、蒔田も上辺だけの付き合いばかりではありませんよ、というささやかな相づちがわりだ。恋敵になってしまったとはいえ、蒔田と僕はそれよりももっと長い、十年以上の友情があるのだから。  「杏さん!」  あっ、でもやめろ、蒔田。突然の真剣な声に、嫌な予感がよぎる。見えないところから人間関係を育てるのもいいと言ったばかりじゃないか。まさか告白なんかするつもりじゃないだろうな。もしそれで気まずくなったりしたら、杏さんがエスペランサに来てくれなくなる。それにもし二人がうまくいってしまったら、僕は告白すらできなくなってしまう。  セコイと批判されるかもしれないが、告白をいつでも妨害できるように、蒔田ににじり寄る。いざとなれば、よろけたふりをして蒔田にぶつかるつもりだ。  「今度、オカリナを聴きに農園にうかがわせてください」   ……よかった。告白じゃなかった。ほっとしながら、すかさず口を挟む。      「あ、僕も聴きたいので一緒にいいですか?」     
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