プレイボーイが恋に落ちるとき

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 先ほどオカリナを聴く機会があったら、一緒に聴かせてもらおうと決意しておいてよかった。そうでなければタイミングよく会話に割り込むことはできなかったに違いない。  パサッと強めに尻尾が床を打つ。ラブラドールよ、「僕も聴きたい」とでも言いたいのか?  「私も聴きたいです」カウンター席から声がかかった。この声は……、渚さんだ。そっと店内を見回すと、そこここでお客様がうなずいている。  「あの、そんなたいしたものでは……」    杏さんが真っ赤になって言う。  「いいじゃない。聴かせてよ。簡単な曲でいいから。私オカリナの音色って聴いたことがないの」  渚さんは笑って言った。蒔田にだけオカリナを聴かせる事態になるのは避けたい僕にとって、渚さんはほどよく強引だ。蒔田はふっと肩の力を抜いて僕を見た。仕方ないな、というように首をすくめる。    「杏さん。私が先ほど差し上げたネックレスのオカリナ、今すこしだけ吹いてもらえませんか?」  「えっ! いえいえ、そんな。エスペランサでオカリナを吹くなんて」    杏さんは手を振って断ったが、  「ぜひ。お客様もお聴きになりたいようですから」  と、蒔田は渚さんや店内のお客様に確認するように言う。それに答えるように、パチパチと拍手が鳴った。盲導犬を連れた彼女も、胸の前で手を叩いている。     
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