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デザインカプチーノに心を映して
(今日はもう閉めてしまおうか?)
ちらっとそんな考えがよぎって、フォームミルクに絵を描いていた手をとめる。カプチーノの上には、このところ毎日練習している絵が描かれている。
エスペランサの閉店時間は夜八時だ。少し早めだが、本格的なアルコールは出していないので、残業した後に軽く食事でもして帰ろうかと立ち寄って、ゆっくりしていただける位の時間を設定しているのだ。
いつもなら今頃は、軽い夕食を取りながらおしゃべりを楽しんでいた店内のお客様が、コーヒーでくつろいでいる時間だ。しかし今日は夕方から雨が降ってきたからか、すでにお客様は誰もいなかった。
(せっかくだから、このカプチーノ飲んだら帰るか)
カップを手に取ろうとしたところで、カランカラン、とドアベルが鳴った。
「あっ、杏さん。……と渚さん」
僕は手元にあるカプチーノをさっと流しに零した。
「ちょっとマスター、私のことおまけみたいに言わないでよ」
渚さんが手をひらりとふって、僕をたたくマネをしながらふざけて言う。
「いえいえ、そんなつもりでは」
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