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しかし、なぜ彼女はここにいたのだろうか。湯之尾神舞に出るのは、湯之尾の人間だけだ。湯之尾小学校にはあんな子はいなかった。しかも、彼女は火の舞を舞っていたのだ。
「あ~!わからん!」
大声を出した途端、
「うわっ」
自転車がガタガタとなって、たまらず大地は飛び降りた。
「何なん、もお~」
タイヤを触ると、べっこり。空気が入っていない。タイヤの真ん中に何か刺さっている。引き抜いてみると、錆びて何かわからなくなった画鋲だった。
「誰や、こんなとこに罠を張ったやつはぁ~!」
またパンク。父親にどういったらいいものか。
頭を抱えていると、後ろからバイクの音が近づいてきて、大地を追い越していった。男が運転し、後ろに乗った女が男の腹に手を回している。ふたりはぴったりとくっついて、ただバイクに乗っているだけなのに随分と楽しそうにみえた。
「ああ~……いいなあ~」
日が高くなってきたので、照り付ける太陽が熱い。もうすぐ夏が来る。
盆地の夏は暑い。
背中にじわじわと汗をかいて、制服のシャツが貼り付いている。
「よしっ!いっちょ行っが」
大地はカラカラと音を立てながら、自転車を押して歩いた。
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