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翌日、大地はバスに揺られていた。パンクした自転車はパンクしたまま、小屋の見えにくい場所に停めてきた。
言い出せなかった大地は仕方なくバスに乗った。
とはいえ、バスに乗ったのは、期待がなかったわけではない。
(もしかしたら、あの子も乗ってるかも……)
そう思ってバスに乗り込んだ大地は、車内に乗り込んで、がっくりきた。学生は数人乗っているが、農林生ばかりだ。
停留所に停まるたびにソワソワ、キョロキョロしてしまうが、とうとう農林高校に着くまで、高原まどかは乗ってこなかった。
「もう、なんか何もうまくいかん」
机の上でだれる大地の頭に、丸めたノートをパコンッと当ててきたのは言わずもがなの雄大だった。
「大地くん、恋の病ですねえ?」
「違え。今度親父の呑ん方行くことになって、憂鬱なだけ」
「あ、そう?じゃあ、俺の集めた情報聞かん?」
雄大はニヤニヤとスマホの画面をスワイプして見せる。
「おいっ。それとこれとは話は別やろ。言え」
「おう、おう。人に頼む態度には見えんがなあ?」
「教えてくださいお願いします、雄大様」
大地は即座に額を机につけて頭を下げた。
「よろしい。教えましょう」
神様のようなポーズをとって、雄大はスマホに目を向けた。
「さえちゃんに聞いたところによると……」
「俺のことをダシに、さえちゃんと連絡とったわけか」
「まあな。黙って聞け」
「あいよ」
「高原まどかは、大口高校の才女らしいぞ。成績は学年一で、模試もかなりいいらしい。本当は鶴丸に行けたって話」
「鶴丸ぅ!?」
鶴丸高校は、県下一の公立進学校だ。
「なんで大口に?」
「知らん」
「役立たず」
「何い?もう教えんぞ」
「ごめんなさい。雄大様。大明神様」
雄大は偉そうに咳払いした。
「会いたいか?」
雄大の言葉に、大地はパッと顔を上げた。
「会えるんか?」
今まで、雄大の交友関係の広さ(特に女性関係)には、節操のなさを感じていたのだが、今ここにきて、スタンディングオベーションをしたいほどの感激を覚えている。
(ありがとう!ありがとう!)
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