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「ま、大地は将来も決まっとるようなもんやし、何か欲しいものがあるってわけでもないしな」
雄大がいつものおちゃらけた笑顔に戻って言った。
「将来か……」
伊佐農林の生徒はほとんどが就職するが、ごく一部進学する生徒もいる。就職先は、食品加工会社から、建設業、公務員まで様々だ。
大地の家は、専業農家で米作りをやっているので、みんな大地が家を継ぐと思われている。そもそも、大地が農林高校に進んだのも、自分の意志によるものではなかった。
中三の三者面談の時、隣に座った父親が、先生が口を開くよりも早く言ったのだ。
「大地は伊佐農林高校を受験しようと思っちょります」
初耳だった。
しかし、なにぶん、他のどこに行こうという気持ちもなかった。そして、成績的にもちょうどいいと思った。
そういうわけで、大地は伊佐農林に来たわけである。
「雄大、おまえの言う通りや」
「何や、神妙そうな顔して」
雄大はもう他のことに夢中で、さっきの会話などとうに忘れ去っている。
けれど、雄大の言葉はいつまでも大地の胸の中に残っていた。
(雄大の言う通りや……)
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