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花火大会当日、花火開始の一時間前には大地は湯之尾神社前のバス停にいた。日が傾き始めた夕刻と夜の狭間の時間だった。
大地の前でバスがとまった。
「ごめんなさい、乗りません」
運転手に手を振って見せると、バスの扉が閉まって再び走り始めた。
大地は何度も時計を確認し、その度に時計の針は一分しかすすんでいなかった。何度かバスが停まって、断るというのを繰り返しているうちに、空は次第に薄暗くなっていった。
時計は19時半を回っている。花火開始まで30分を切った。
「来んなあ」
空が暗くなればなるほど、大地の気持ちも落ち込んでいった。
雄大の言った言葉が頭によみがえる。
「おまえ、それは騙されとる」
「あんなに美人で頭のいい女が」
「遊ばれてんだよ」
あたりは真っ暗になっていた。ヒグラシが鳴き始めて、花火開始まであと10分だった。
「ははっ」
乾いた笑いが出た。
「かっこわるっ。本当に来ると思うて浮かれてしもた」
バスが停まった音がしたが、大地はもう顔をあげることもできなかった。しばらくすると、バスは扉を閉めて走り出した。
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