火の神

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 ドンツク、ドンツク、ドンツク……  右、左、右、左……。 ――常識で考えてみてよ。 ドンドン、ドンツク、ドンツク、ドンツク…… 右行って、左行って……。 ――父親に暴力ふるわれてたって。  ドンツク、ドンツク、ドンドン……。  右、左、右、左……。 ――どうして女は踊っちゃいけないわけ?  足が止まった。 「次……どうすんだっけ」  その時、父親の怒号が響いた。 「大地―――っ!!!」  地震のような声に、大地はたじろいだ。なんだろう。部屋から出ようとすると、大地の目の前でふすまがパーンと開いて、父親の張り手が飛んだ。  大地はぶっとんで、ベッドの上に尻もちをついた。 「おまえ、原付買うってどういうことや!!!」  真っ赤な顔をした父親の後ろで、母親が無言のごめんポーズをしている。 (しゃべったんか……)  左の頬がじんじんしている。 「どういうことって……自分で貯めた金やし」  初めての反論だった。内心ドキドキしていたが、できるだけ平静を装った。  逆に、父親は大地が反論したことに驚いた様子だった。しかし、すぐに気を取り直した。 「そもそも、俺はバイトも許した覚えはなかぞ。するにしても、なんで俺に一言ない」 「言っても、父ちゃんすぐダメって言うじゃろ」 「ダメって言うたらすぐ引き下がるような程度の気持ちで、原付に乗れるか!」 「じゃっで、引き下がらずに、こっそり買うつもりやった」 「こっそりっていうのが気に食わん。男として情けないと思わんのか」 「思わん!」 「この!」  父親は大地の胸ぐらをつかみなおし、もう一度こぶしを振り上げた。 「やめやんせ!」  一声に、父も大地もピタリと静止して母親を見た。  大騒ぎが一瞬にしておさまった。 「そいよい、先にご飯を食べやんせ」 「「……はい」」
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