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おんぼろ自転車は整備してもらったばかりにもかかわらず、キーコ、キーコと音を立てている。
「くそっ」
こいでも、こいでも、前に進んでいる気がしない。すーっと後ろから車が追い抜いていき、ずっと、自分だけ同じ場所で足踏みをしているような気分だ。
その時、一台のバスが通り過ぎた。バスが大地を追い越す瞬間、スローモーションになった気がした。そのくらい、バスの中の人物がはっきりと見えた。
白い肌。黒い髪。すっと伸びた背筋。
「あっ」
目を伏せて本を読んでいるが、間違いない。昨日の彼女だ。
「待って!」
思わず立ち漕ぎになって、ペダルに力をこめる。ぐんっとスピードが出た。
バスに追いつけるはずがない。けれど、大地は思い切り自転車のペダルをこぎ続ける。
風が大地の前髪と、開襟シャツの襟をはためかせた。
バスは大地が追いかけていることにも気づかずに、スピードを上げた。どんどん小さくなっていく。とうとうバスは交差点を曲がって、見えなくなった。
「あの制服……」
黒いセーラーに白のラインが入っていた。
「大口高校かぁ」
大口高校は伊佐市唯一の公立進学校だ。といっても、伊佐市には大口高校と大口明光学園、伊佐農林高校の三つしかないわけだが。
だ
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