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大地は伊佐農林高校と看板の建っている校門をくぐった。見ての通り、大地が通っているのは伊佐農林高校。農林情報科と生活情報科の二つの科があって、大地が通っているのは農林情報科だ。
「おお。遅かったな、大地」
雄大がニッカリと笑って手を挙げた。
「うるせっ」
ヘルメットでヘタッた雄大の頭をガシガシとかき回すと、雄大が大げさに振り払った。
「やめろよぉ~!禿げたらどうすんだよお!俺の毛根は繊細なんやぞ」
雄大は父親が禿げているので、自分が禿げることを極端に恐れている。ちなみに、雄大の父親は10代のころから薄毛への階段を上り始めたらしい。
「じゃあ、原付通学はやめたほうがよか。ヘルメットかぶっとりゃ、禿げる確率があがる」
「マジ?」
「しらん」
雄大の毛量なんてどうだっていい。そんなことより、大地には今、人生の重大事があった。
「雄大さあ、大口高校にかわいい子いるの知らん?」
何気ない風を装ったつもりだったが、雄大にその手は効かない。
「何?好きな子でもいんのか?」
他はポンコツだが、こういうところは鋭い。
「いや、好きとかそういうんじゃなくて、かわいい子いないかな、と思って」
何度も髪を触っているので、嘘だとバレている。雄大とは菱刈中学からの付き合いなので、大地が嘘をつくときのわかりやすい癖も知っている。
「ふうん。いいね、いいね。かわいい子いるの知ってるよ。さえちゃん?ゆうか?」
こいつは本当に顔が広い。女子については特に。
「肌が白くて、黒髪の……」
大地が答えると、雄大は明らかに気落ちした声を出した。
「ああ、あの……」
「何」
言っていいかどうか、雄大は一瞬逡巡して、すぐにきっぱりと言った。
「あれはやめとけ。おまえには無理」
「無理って……まあ、そうかもしれないけど」
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