紅い

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 あまりにもはっきり言われたので、少なからず傷ついた。確かに、絶世の美女とまではいかないまでも、すべてのパーツが整って清廉とした顔は大地には高嶺の花かもしれない。 「そうじゃねんだよ。そういう意味じゃないんだって」  雄大が大地の首に腕を回し、声をひそめた。 「とにかく性格がきっつい。美人だから声かけようと思ったら、思いっきりにらまれた上に、かばんで殴られた。ありゃ、極度の男嫌いやっで」 「おまえ、声かけたことあんの?」  相変わらず、ナンパなやつだ。伊佐市のほとんどの美女はこいつに声をかけられているのではないだろうか。  しかし、こう簡単に他人に声をかけられる性格は、うらやましくもあった。  大地は彼女と初めて会った時のことを思い出した。大地は何もしていないのに、にらまれた。にらまれておいてなんでこんなにも気になっているのかも謎だけれど。 ――けれど……。 大地はバスを追いかけたときのワクワク感がまた込みあがってきた。あの時、確かに彼女を追いかけてどこへでも行けそうな気持ちになっていた。こんな気持ちは初めてだ。 「よかで、名前だけでん教えろ」  雄大は少しだけ迷って、すぐに「ま、いっか」と肩をあげた。 「高原まどか」  脳裏にあの赤いスカートがよみがえる。白い肌も。紅くなった頬も。 「高原まどか、か」  ぽつんとつぶやくと、すかさず雄大が茶化す。 「え、何?大地くん、キモいんですけど」  ニヤニヤ笑いの雄大を小突いて、席に着いた。  高原まどか。高原まどか。  その名前は、少しつんとして気高い彼女によく似合っていると思えた。
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