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紅い
――紅い。
目の端に、赤がチラチラと揺れる。
――紅い。
スカートだ。
赤いスカートが翻る。
白い足がタンと跳ねた。
――紅い。
タンッと踏んだ足を止めて顔を上げた白い肌は紅く染まり、満足げな笑みが浮かんでいる。
大地はぼうっとその少女を見ていた。
その時、大地は学校帰りだった。パンクしてしまった自転車を引いて、たらたらと歩いているところだ。
湯野尾神社の前に差し掛かった時、赤いものが見えた。最初は鳥居の脇に植えてある紅葉だと思った。けれども、今は紅葉が赤く色づく時期ではない。
近づいてみると、誰かが舞を舞っていることに気づいた。
「火の神……」
大地は我に返って、自分の口をふさいだ。
思わず出た声に、舞っていた相手が大地を見た。瞳に光がさして、漆黒の長いまつげが瞬く。つややかな黒い髪がしなやかに揺れて、白い肌を鞭打った。
――女神。
大地はそう思った。
しかし次の瞬間、さっきまでの楽しそうな顔は消えた。眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔を顕わにした。いや、不機嫌なんて優しいもんじゃない。にらんでいる。女神じゃない。鬼だ。
こっっっっわ。
「あの……ごめんなさい」
もちろん自分が何か悪いことをした覚えはない。けれども、反射的に謝ってしまった。
「誰にも言わないで」
少女は大地を睨みつけたままそれだけ言うと、鳥居脇に止めてあった自転車にまたがって、あっという間にカーブを消えていった。
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