好いちょうで

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好いちょうで

「おはよう」  いつものように挨拶した後、本に目を落としたまどかの前で、大地は二度三度行ったり来たりした。そして、ついに意を決してまどかの隣に座ったのだ。 「あの、さっ」  思わず声が上ずってしまった。 「ん?」  首を傾けるまどかの、耳にかけた髪が首元に垂れる。 「八月に花火大会あるの知っちょう?ガラッパ公園で」 「あー、知ってる」  近頃はまどかの態度も砕けてきている 「行く?」 「今のところ行く予定ないけど……」 「あ、そう」 「今のところ、ね」  まどかが意地悪そうに笑った。 「じゃあ、もし俺が行こうって言うたら……?」 「行く予定になる……かも」 「行こう!」 「わかった」 「やったー!!!!」  思わずこどもみたいに万歳した。まどかはおかしそうに笑っている。 「待ち合わせ、どうする?」  連絡先を聞こうとして、スマホを取り出した大地に、恥ずかしそうにまどかは言った。 「私、携帯持ってなくて」 「ああ、そうや。うん。わかった。じゃあ、花火の時間の30分前にここで」 「わかった」  こんな幸せがあるのか。風船のようにふわふわと天にも昇る気持ちだ。  しかし、そんな大地の足にひもをくくり、地面に引っ張り下ろして地面に固定してくれる、ありがたい存在がいた。 「おまえ、それは騙されとる」  雄大が神妙な面持ちで言った。 「おまえもそう思うか」 「当たり前じゃろ。あんな美人で頭のいい女が、おまえみたいにバカで能天気な男を好きになるわけない」 「本音が出とうぞ、本音が」 「俺がオトせなっかった女を、おまえがオトしたなんて、俺のプライドが許さん」 「オトすとか、そんなんじゃ……」 「あったりまえだ!遊ばれてんだよ!遊び!遊び!」 「遊び……なんやろか」  あのまじめなまどかが男を弄ぶとは思えない。  けれども、なぜOKしてくれたのかも、大地には皆目見当がつかなかった。  まどかが好きだとまるわかりなこの男を、かわいそうだと思ったのだろうか。  ある日突然気が変わったと言われても、不思議ではない。  そう肝に銘ずることで、自分の足を地面に固定したのだった。
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