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眩い朝日
盆地の冬は寒い。
手をズボンのポケットに突っ込んで、あくびをすると息が白くなった。歩くと霜柱がザクザクとなって心地よい。
まだ日が昇りきっていない朝ぼらけに、白い道が浮かんでいる。昨夜
降り出した雪は、朝には世界を真っ白に覆っていた。
後ろを振り返ると、大地が歩いてきた道には、まだ大地の足跡しかついていなかった。
その後から、ザクザクと慎重に雪を踏んで歩く姿が見えた。
「おはよう」
まどかだ。
白い肌に頬と鼻が赤くなって、吐く息が白い。
「おはよう」
いつもの湯之尾神社前バス停のベンチに腰を下ろした。まどかは小さな顔が半分近く、赤いチェックのマフラーに埋まっている。
この雪だ。バスは来ないかもしれない。
それどころか、今日は休校になる可能性もある。
それでも来たのは、まどかが来るかもしれないと思ったからだった。
「お母さんが、大学行っていいって。あの家を出ていくことになってもいいから、自分のしたいようにしなさいって。さっそく学費を稼ぐために、働き口を見つけたみたい」
「え?マジか?よかったな!」
まどかはにっこりと笑って頷いた。
「大地のお陰」
「俺は何も」
大地は照れくさくなって、うつむいた。
思えばとんでもないことをしたもんだと思う。
けれども、まどかの願いがかなって、結果オーライだ。
「私、福岡の大学に行くかも」
まどかの言葉に、大地は息をのんだ。
そうだ。
まどかが自分で未来を選ぶということはそういうことだ。
一面の白い道に、ふたりの足跡だけが残っていた。これから先には、まだ足跡のない道。
足跡は違うところに向かうのかもしれない。もしかしたら、いずれまた会うのかもしれない。
「うん」
それしか言えなかった。
別の何かを言えば、泣き顔になってしまいそうだ。
「受かったらだけど」
「うん」
まどかは立ち上がった。大地は立ち上がれず、顔を伏せて座ったままだった。
「けど、時々は帰ってくるから」
まどかは振り向いて笑った。まどかの後ろに、朝日が昇り始めた。
「うん。待っとる」
朝焼けが目に染みる。じんわりと涙がこみ上げるのを、必死でこらえた。
――紅い。
――紅い。
――紅く、燃える。
ふたりの思いが、色づいていく。
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