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ゲンは消えたおせんを見上げた姿勢のままじっと動かなかった。祥子もそんなゲンにかける言葉がなく、動けなかった。
「祥子」
ゲンは祥子を振り返った。その顔には、精悍さでも少年っぽさでもない、今までに見たことがない表情があった。
「こんなオレと、生きてくれるか」
おずおずと差し出した手を振り払われたら死んでしまうというような、不安と期待に満ちた顔。祥子は頷くかわりに、高い位置にあるゲンの首に両腕をまわしてぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫だよ、ゲン。私がずっと側にいるからね」
ゲンの腕がすがりつくように祥子の背中にまわされた。頬に雫がひとつ落ちてきた。
これからの問題は山積みだ。でも二人一緒なら、なにも怖くない。命をかけて私を守ってくれたゲンを、今度は私が守るのだ。
まずはゲンをおばあちゃんに紹介しなくては。そして、今夜はご馳走を作ろう。すべてはそこからだ。
祥子はゲンの手を引いて歩き出した。
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